CDの歴史について(後編)

CDの歴史について(後編)

歴史と技術の進歩

【CDの歴史に見るデータ保存技術の進化】

 

CDの歴史がスタートしたのは、1980年代になってからです。それまではカセットテープが主流で、世界中で利用されていました。ただし、レコードやカセットテープなどは、豊かな音が聴けるというメリットはあるものの、こもったり、細かな音の再現ができなかったりと、音質が劣るのがデメリットでした。しかも、コピーを繰り返すとどんどん音質は落ちていきます。

 

CDの歴史が始まると、こうした問題が解決されます。デジタル音源が採用されて、クリアな音質で長時間の音楽が聴けるようになったからです。デジタル音源では、音の波を0と1の組み合わせによるデジタル信号に一度置き換え、その0と1の組み合わせをディスク上に記録します。プレーヤーではデジタル信号を読み取って、それを音として変換するわけです。これにより、正確な音を再現できるようになっています。

 

【CDの仕組みとは?】
CDの歴史を見ると、デジタル音源の採用と共に、そのデータ保存の仕組みにも重要な技術が用いられていることが分かります。CDは円盤状の樹脂でできたディスクです。この樹脂部分にレーザー光を照射することによって、性質と形状を変えて、記録を行います。この形状が異なる部分のことを「ビット」と呼びますが、レコードで言うところの溝に当たります。このビットのパターンによって、0か1かというデジタル信号で記録できるわけです。

 

この記録されたCDをプレーヤーに入れると、今度はレーザー光を照射して読み取ります。光を当てると、ビットの形状によって光の反射角度が変わりますので、その違いによって、0か1かの信号の差を見極めます。こうしてデジタル信号を読み取っていくことができ、最終的に信号を音に変換して再生するのです。

 

CDはデジタル信号を記録していますので、それをそのままコピーすれば、確実に同じ内容のデータ記録ができます。つまり、いくらコピーを繰り返しても、理論上は常に誤りのない音源を作れるというわけです。CDはテープなどと違って、コピーを繰り返しても音質の劣化が生じにくい作りとなっているのです。

規格を巡る動き

【CDの規格について】

 

世界中で普及した音楽用メディアには、レコードやカセットテープ、MD、LDなどがありますが、最も利用されてきたのはCDでしょう。世界中で利用されるメディアの条件として、音質が良いことや価格が安いことなどがあります。同時に忘れてはいけないのが、統一された規格が存在し、それに基づいて製造されているという点です。その点、ビデオにはVHSやベータといった異なる規格があり、一時期混乱が生じました。こうしたことがないよう、CDでは発売当初から規格が統一されていたのです。

 

CDの規格においては、直径が12センチ、録音時間が75分といったポイントがあります。サイズが統一されていることで、プレーヤーのサイズも同じにすることができて、電機メーカーにも、実際に購入して利用するユーザーにも混乱が生じません。サイズは直接的に録音時間にも影響しますので、この2点は切っても切れない関係にあります。

 

【規格の点から考えるCDの歴史】
CDの歴史を考える際に重要なのが、ソニーとフィリップス社です。両社が共同開発をして、CDを誕生させたからです。異なる2つの会社ですので、当然、異なる意見や希望を持っています。それは、CDの歴史を変える大きな意見の相違でもありました。というのも、フィリップス社はCDの直径を11.5センチにしたいと考えていました。これは、当時主流だったカセットテープの対角線と同じ長さです。プレーヤーの大きさをほぼ同じにできるメリットを重視していたのです。

 

一方のソニーは、12センチを主張していました。これは、直径11.5センチでは録音時間が60分なのに対して、12センチだと75分となることを根拠としています。75分にこだわったのは、クラシック音楽のほとんどの楽曲が75分であれば収められるという点です。特に、ベートーヴェンの第九が60分強となることから、75分が妥当としたのです。世界的なクラシック指揮者であるヘルベルト・フォン・カラヤンにも意見を求め、やはり第九が収まる75分のほうが良いというコメントを得ます。

 

こうしてソニーの意見が通り、統一規格として直径サイズ12センチ、録音時間75分という形で決まったのです。CDの歴史にクラシック音楽の長さが絡んでいるのは興味深い点です。

音楽業界の闘い

【音楽メディアの進化の記録】

 

CDの歴史を見ると、音楽メディアはこの100年ちょっとで非常に大きな進化を遂げています。音楽を録音して再生するという役割を持つ媒体は、最初、蓄音機という形でスタートします。エジソンが発明したこの機械は非常に衝撃的でしたが、今からすると利便性の面では劣っていました。機械自体がとても重くて大きいので、携帯するのは簡単ではなく、主に自宅に置いて音楽を楽しむ目的で利用されていました。また、シリンダーを回さないと聴けず、しかも当初は手回しだったので、常に蓄音機の前に人が付いている必要がありました。

 

その後、テープ式の音楽メディアが登場しましたが、まだ利便性の面では改善の余地が大きかったと言えます。さすがに手回しの必要性はなくなりましたが、サイズは大きく、プレーヤーも必然的に大きかったのです。

 

しかし、カセットテープに進化すると、事情は大きく変わります。11センチちょっとのサイズとなり、ポケットに簡単に入るコンパクトさを実現したのです。その分プレーヤーも小さくなり、携帯できるようになります。

 

このカセットテープへの進化は、別の大きな変化も生み出します。それは、一般ユーザーが録音もできるようになったという点です。今まではプレーヤーもメディア自体も大きかったこともあって、誰もが録音できるわけではなく、ほとんどの人はすでに録音されているものを購入して、再生するだけでした。しかし、カセットテープになったことで、プレーヤーも小さく、しかも録音機能が標準で付くようになったのです。人々は自分たちでラジオなどで流れる音楽を録音して、自分用のメディアを作るのを楽しむようになりました。

 

【CDの歴史と海賊版の存在】
その後、CDの歴史が始まります。テープとは違い、デジタル音源となったことも大きな変化を生み出します。テープの場合、コピーを繰り返すと音質が極端に落ちますが、CDはデジタルなので、高音質を保ったままでコピーできるのです。そのため、CDの歴史と共に、音楽の海賊版がより広まっていくのです。

 

音楽業界として、これは大きな痛手です。違法コピーにより、新しいCDの売れ行きが落ちてしまうからです。そのため、世界中で様々な海賊版廃止キャンペーンを始めます。政府も、著作権などの権利保護についての法整備を始めました。個人使用以外のコピーと配布を違法とし、日本でも厳格に海賊版の取り締まりがなされています。もちろん、個人の思い出を残すためのDVDコピーは可能で、引き続き高品質の記録保管に役立てることができます。

CDの歴史がもたらした変化

【CDの歴史の始まりによって変わったこと】

 

CDの歴史が始まったことによって、データ保存の利便性は一気に高まりました。というのも、CDはディスクに保存できる容量が非常に大きいからです。CDの歴史がスタートする前のデータ保存の媒体としては、フロッピーディスクが主流でした。フロッピーディスクは、最大で1.44MBしか保存することができません。一方のCDは、650MBもしくは700MBのデータを記録できます。つまり、サイズはほとんど変わらないのに、フロッピーディスクの450枚分くらいのデータを1枚で収められるわけです。

 

これだけのデータを記録できるということは、単に必要なディスクの枚数が減るだけではありません。写真や映像など、データ容量の大きなものを簡単に記録できるようになり、ソ高度な機能を持つソフトも楽にインストールできるようになったのです。

 

また、音楽の世界にも大きな変化をもたらしました。CDの歴史が始まるまでは、カセットテープが主な音楽メディアでした。アナログ音源のカセットでは、鮮明な音質を再現するのはどうしても難しいものでした。しかし、CDの登場によってデジタル音源となり、細かな音の再現が可能になり、より再現性の高い音楽を聴けることになったわけです。高い音質に加え、70分程度の長い時間の楽曲を記録できますので、聴ける音楽の幅も広がります。

 

【データ保存方法のさらなる進化】
CDは、登場後も進化を続けていきます。発売当初、少なくとも市販ベースでは読み込みしかできないCDのみでしたが、その後、太陽誘電という日本企業がCD-Rを開発します。これは書き込みができるディスクで、個人でもCDを使ったデータ保存ができるようになったのです。

 

これにより、自分の趣味で集めた音源や写真、仕事で使うテキストファイルやソフトなどを簡単に保存できるようになります。今まではデータ容量の小さなフロッピーディスクしかありませんでしたので、簡単なテキストファイルしか保存できなかったのが、事実上制約なく、あらゆる形態のデータを個人的にも保存可能となったわけです。

 

DVDが登場して、さらに保存できるデータ容量は大きくなります。特に、動画などのデータサイズが大きなものを保管するのに適したメディアです。私的な使用に限られますが、DVDコピーによって、今まで大事に残してきたデータをデジタル化することも可能です。技術の進歩によって、大事なデータの保存もしやすくなったというわけです。

種類の違いで見るCDの歴史

【CDの種類の違い】

 

CDと一口に言っても、実はいくつもの種類が存在しています。重要な違いとして、書き込みができるか、再生専用かという点を挙げることができます。いわゆる音楽CDとして、楽曲が録音された形で販売されたりレンタルされたりしているものは、再生専用のCDです。そのため、一度音楽データを記録したら書き換えも追加もできず、単に読み込みをする以外の用途には使えません。

 

当初は、この読み込み専用のCDのみが使われていました。その後、CDの歴史の中で重要な変化が訪れます。それは、CD-Rの登場です。1988年に書き込み可能なCDを開発され、翌年の1989年に発売されたのです。そして、1990年にはCD-Rドライブ、つまりCD-Rに書き込みができるレコーダーも発売されます。

 

CD-Rではデジタルデータをディスク上に書き込むことができますが、一度記録すると書き換えはできない形式です。ただし、ディスク上に容量の空きがあれば、いわゆる空白部分に書き増していくことはできます。このCD-Rが登場することで、一般家庭でも楽曲をCDに保存したり、ビデオなどの大きなデータを保管したりできるようになります。ビジネス上においても、業務データや書類をデジタル化して1枚のディスクに保管できるようになったため、オフィスの省スペース化や業務効率化などに一役買うことになります。

 

さらに、CD-RWという種類が登場します。CD-Rは一度書き込んだら書き換えはできないのですが、CD-RWは書き換えも可能です。1枚のディスクで何回も使えるため、いっそう利便性が増します。もちろん、書き込みの回数制限はありますが、書き換えができることでハードディスク代わりに使えるなど、使い道も大きく広がっていたのです。

 

【CDの歴史を支えた日本企業】
CDの歴史を語る上で、日本企業の活躍は欠かせません。そもそもCDの歴史の始まりは、日本のビッグ企業であるソニーとフィリップス社が共同開発を進めたことです。CD-Rも、やはり日本企業である太陽誘電が開発、発売しています。

 

ディスクだけでなく、プレーヤーの面でも、日本企業がCDの歴史に大きくかかわってきました。CDの開発者であるソニーを始めとする電機メーカーが、安くて高品質なプレーヤーを販売したことで、世界中に広がっていきます。

 

CDの後にはDVDが登場したことで、ますます利便性が高まっています。たくさんのデータを残すためにDVDコピーをする人が多いですが、やはりそこにも日本企業が貢献していることを考えると、感慨深いものがあります。